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2009年3月26日 (木)

カブでお遍路18

カブでお遍路
明日しかない、と思った。全国的に晴れとの予報が出ている明日を逃したら、また前回のように悪天候に見舞われるに決まっている。前回は一週間延ばしたために酷い目に遭った。今回のお遍路の主目的は前回の最後に打ち損ねた明石寺まで行くことだ。大洲の先の明石寺まで行こうと思ったら、5時には出発しなければいけないだろうと予測した。
まだ暗い産業道路を南下している時、「玉野トンネル不通」の電光サインが頭上にチラリと見えた。年度末恒例の工事かなにかだろうと早呑み込みをして迂回したのが失敗だった。これで20分は時間を浪費しただろう、港に着くと眼の前でフェリーが出ていった。 次の便までは30分待たされるのでモギリの係員と話をする。あの電光サインは本当だったのかと訊いたら、「あれは20、21日でまだ先だ」という答えが返ってきた。親切にも国土交通省だか工事業者だかがフェリーの事務所へ配布してきた案内のビラを見せてくれる。やられた。このあたりが二輪の限界だ。じっくり電光サインを見る余裕などないのである。
 高松、坂出間では白バイのおかげでまた時間を喰わされた。高松市内の11号線で、私の100m程先に白バイ2台がスッと合流するのが見えた。まさかカブで白バイを追い抜くわけにもいかず、ずっと遵法運転を強いられるはめになった。その間30分、距離にしたら20km程だったろうか。こういった前近代的な交通取り締まりに出会うたびに私は暗澹たる思いにとらわれる。普段の整然とした幹線道路の流れの中に分け入って、10km/h低いスピードで流して何が取り締まりだろうか。それを抜くわけにもいかず、唯々諾々とくっついていく周囲の車も車だ。羊の群れの中に狼が一匹まぎれこんだ状態といったらいいだろうか。つくづくこの国では革命はおこらないなと思う。
 高松、坂出間の11号線は高速道路と見まごうばかりの道である。片側3車線の道路に普段は70km/hの車の流れが出来ているのを警察が知らないわけがないだろう。このような真の交通安全に繋がらない類の警察や道路管理者による規制の例は枚挙に暇がない。物陰にコソコソ隠れてやるスピード取り締まりは言うに及ばない。高速道路の総延長の大部分が80km/h規制の国など他にあるだろうか。中国自動車道の新見、庄原間には常時50km/h規制の区間があるが、殆どの車は80km/h以上の速度で走行している。そもそも道路というものが人間の経済活動を支えるために作られているのだということを取り締まり側は認識していない。自動車の性能が加速、制動、安定性とすべての面で進化しているのに、50年前の規制が今だにまかり通っているこの国は世界一の不思議国だと言えるのではないか。
 暖かい。11月に走った時とは大違いで、同じ道とはとても思えない。Tシャツで歩いている遍路もいる。前回はみぞれや雨にやられて、とうとう最後の明石寺をはずしてしまった。その後遺症で往復80km
を余計に走らなければいけないはめに陥ってしまったわけである。いや、こと遍路に限っては余計とか無駄とかいうことはないはずで、これも修行だと心得るべきなのだろう。
 明石寺では水屋の手水鉢が妙に印象に残った。龍の口から水が吐き出されている。側面にも龍の彫り物。今どきの機械彫りとは違って力感に溢れているではないか。確か昭和30年代に奉納されたものだったはずだが、この頃にはまだ、これくらい掘れる石屋が地方にも居たということだろう。
 駐車場の一隅に設けられた売店で梵字のステッカーと饅頭を買う。カブの後部キャリヤに積んだ青いプラスチック製の箱に何らか遍路中であることを示すステッカーを貼ろうと思い、各地の寺付属の売店で探してみるのだが、それらしき物は見当たらない。南無金剛偏照とか同行二人とか、あってもよさそうではないか。考えてみれば千社札禁止の寺が多いから、こういった物を販売して、それを寺の建物に貼られてはたまらないということかも知れない。
既に一時を過ぎているが、ここまで昼食を取っていないのを思い出した。どこかで食べないといけないが、この度は「大介うどん」に決めた。この地方を走ると、あちこちでこの店の看板を見かける。独特の太い字で店名を書いただけのもので、その看板からは店のスタイルやメニュー構成とかはまったく想像できない。こうまでされると「来たい者だけ食べに来い」と言っているようで、余計に店側の自信を感じてしまう。内子町あたりのロードサイドにそのチェーンの一店を見つけたのでカブを停めてみた。店内に入ってすぐ、その自信を裏づけるものを発見した。要は何玉食べても料金がいっしょなのだ。

入り口近くに比較的小さめのうどんの玉がお茶碗に入ってならんでいる。私の前に並んでいるご夫婦の御主人のほうは4玉。私は2玉取ったのだが、奥さんに笑われてしまった。「上品ねえ。私でも3玉なのに」と。この地方独特のじゃこ天も取って、かなり遅い昼食となった。食べながら考えたのだが、4玉も取ってしまうと汁がほとんど入らないのではないだろうか。敵もさるもの、損はしないように考えてある。食べながら地図をひっぱり出して、帰路をどう取るか考えてみた。43番だけ打って帰るのはあまりにも惜しい。少し時間はかかっても44番、出来れば45番まで回りたい。まだ2時台だし、なんとかなるだろうと読んだ。

 内子町から川沿いに山奥へ入っていく。明石寺の駐車場ですれちがったビッグバイクとすれちがう。あのひとは既に44番からの帰りなのだろうかと、ふと考えた。それにしては早い。あるいは道に迷って引き返すところなのかと次第に疑心暗鬼になってくる。

 いくつかの分岐点を通過して、異様に速い軽のワンボックスに追いついた。所謂ジモティーというやつだろう。運転者は女性だが、あらゆるカーブのR(半径)を知り尽しているかのようにノーブレーキで突っ込んでいく。カブでそれを追尾するのは簡単なのでペースメーカーにすることにした。それにしてもいまどきの軽のオートマチックはよく出来ている。しだいしだいに高度を稼いでいるのが分かる。 30分程の追っかけゲームの末に久万高原に着いた。このルートでこの町に来ると、こんな山の中に大きな町があるのが不思議な感じがした。ということは、歩きの本格派以外、殆どの遍路は逆打ち、すなわち47番方向から来るのではないだろうか。

 お遍路を始めてから1年半かけてやっと半分の44番まで来た。本来なら感無量でむせび泣きでもしないといけないところだろうが、バイクで風のなかを突っ走ってきたせいだろうかそんな感情は不思議と湧いてこない。オートバイや車で回って何が遍路だ、遍路は歩きに決まっているという意見もあるだろう。しかし私はそんなことには拘っていない。あるがままを肯定して生きよ、というのが空海の説いたところでもある。その時代その時代の交通手段に頼ったところで、お遍路をしたいという衝動にいささかの違いもないはずだ。

ここで私がいう衝動とは信仰心というようなものではない。お大師様の力におすがりするひとが常に何万人も四国を周っているとしたら、お大師様も疲れてしまうだろう。だから私は今まで形式めいたことは一切してこなかった。白装束に身を固めるわけでもなく、所謂納経ということもしていない。空海が四国の山中や海岸で修行したことは事実だが、すべての寺が空海を開祖とするわけでもない。八十八ケ所巡りというのも後世の人為が加わっていることは否めない。

 さまざまな思いを持ったひとが四国を周っている。半周してみて、今までさまざまな遍路に出会った。しかし遍路どうしがその目的を訊いたりはしない。そんなルールがあるわけではないのだろうが、自然にそういった話題を避けるようになっている自分に気づく。ある意味そんなことはどうでもよくなってくるのだ。自分を見つめる旅だろう。それが千年を越えてなお続いているところにすごさを感じる。

大宝寺を出て松山市へ向かう国道33号線土佐街道を北上する。三坂峠からの下りには舌を巻いた。突然断崖絶壁のような光景が出現し、眼下に松山市が遠望される。こんなにも高いところに上がってきていたんだとはじめて実感した。

 昔は交通の難所として知られ、松山に出入りする人や車を苦しめた桜三里も無事通過し、あとは淡々と高松港へ向けて11号線を走るだけだ。だが帰路上でこれだけは言っておかなければいけない問題点を発見してしまった。それは愛媛県東部海岸地域の交通の問題だ。ちょうど通勤時間帯に西条、新居浜、伊予三島、川之江と通過して帰ってきたのだが、これらの都市の交通の渋滞はひどい。急峻な山岳が屏風のように南側に屹立している為、平野部が狭く、回廊のように狭い平野部を人も物も東西に移動している。

 こうした場合、国道11号線のバイパスを建設することが国や県に課せられた急務であるはずだが、あろうことか彼らはあの悪名高い道路公団(当時)と組んで有料の高速道路を作ってしまったのだ。要は「急ぐ奴は金を払え」という論理であろう。これは地域住民の生活の向上、産業の発展を計るべき役人の責任放棄以外の何物でもない。そしてそのツケはは県民や道路利用者に回される。愛媛県の東部地域ほど役人にコケにされている地域は他にないのではないか。翻って考えてみれば、わが岡山を含む中国地方も並行して2本の高速道路が建設されているという特異な地域だ。今、中国道を走るひとはあまりの寂れように驚くだろう。中国道を作った時点では今ほどのモータリゼーションの発展、あるいは地域経済の伸長は予測していなかったという弁解は言い逃れにすぎない。「まず建設ありき」という採算を度外視した公団や国、県の道路行政のありようが問われているのである。

 

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